ウチのおじぃわんは今年で14歳のゴールデンレトリーバーである。
平均寿命が8〜10年の大型犬としては、長生きした方だ。
彼は3人兄弟だった。
「おっとりしている子にしよう」と家族で相談しながらブリーダーさんの家に行った。
はじめは、丸々しているいかにもおっとりな子をもらうつもりでいたのだが、妹が最後の最後まで彼が良いと言い張った。
ゴールデンの子犬たちで遊んでいると、彼はいつも置いてきぼりをくらっていた。
彼が兄弟が楽しそうに遊んでいることに気付く頃には、もう兄弟達は他のことに興味が移っていて、ワンテンポ遅れて参加するその姿にグッときたそうだ。
3姉妹の末っ子の妹にとっては、他人事と思えなかったのだろう。
そして彼はとびきりお顔が可愛かった。
体は細くて小さくて、金色のダックスフントの赤ちゃんのようだった。
その当時流行った映画の、二枚目俳優の名が付けられた。
彼は家族の小さな王子様だった。
大層怖がりで、甘えん坊で、大きくなってもいつまでも私のあぐらの中に潜り込む。
いくつになっても、大きくなっても、彼は家族の王子様だった。
いつまでもいつまでも、赤ちゃんの頃と変わらない甘えん坊の王子様が、もうすぐ息を引き取ろうとしている。
昨年の10月、彼は大量の鼻血を出した。
癌かも知れなかった。
初代ゴールデンの時にお世話になった獣医さんが、薬を飲んでみて様子を見ようと言った。
まだ腫瘍らしい腫瘍は見つからず、薬が効いたら癌の可能性は低まるらしかった。
鼻血は出ないが、鼻水は止まらない。
私たちは不安なまま、だけど祈りながら、彼の症状が消えていくことを願った。
12月末
彼は痩せてはいたが、表情は元気そうだった。
散歩は行きたい気持ちと、そうでない気持ちが半々。
久しぶりに一緒に外を歩いた。
父が「普段はスグ帰りたがるけど、お姉ちゃんが来ると張り切るみたいだ」と嬉しそうに言った。
私たちは昔からの散歩道より、ちょっと短いコースで、新鮮なヨモギの葉を探しながら歩いた。
年を越せたことを喜んだのも束の間
先日実家に帰ったら、明らかに彼は痩せ細っていた。
食事の量に対して、痩せ方が尋常じゃない。
みんな、何となく分かっていた。
彼はきっともう長くはない。
5月の誕生日まで、生きられるか分からない。
そんな折、彼が大量の鼻血を出したと連絡を受けた。
2度目だった。
覚悟ができる死は、優しいけれどこんなにも切ない。
私たち家族は、彼に愛を語り、触れて、抱きしめることしかできない。
体を辛そうに起こす
トイレが間に合わなくて切ない顔をする
鼻が詰まって鳴くこともできない
そんな彼に、もっと生きて欲しいということは酷な気がしてしまう。
けれど、まだ、もう少しだけ、できるなら生きていて欲しい。
彼が生きているというだけで、こんなにも救われる人間がいる。
私たちは彼に「愛している」と言う他ない。
足腰が立たなくても、1日何度もトイレを失敗しても、家の中が臭くなっても
それでもこの老犬を愛している。
あなたを世界一愛している。